「生計一だから扶養親族になりますね」とか
「同一生計だから、小規模宅地の特例が受けられます」など
税法では「生計を一にする」という言葉がよく出てきます。

しかし、この「生計を一にする」という「同一生計」の定義が曖昧と言えば曖昧と言える部分もあるため、混乱することがあります。

早い話、サイフが同じってこと

「生計を一にする」の「生計」とはどんな意味でしょうか?

 

広辞苑(第六版)で「生計」を調べてみると

 

くらしを立てるためのてだて。くちすぎ。すぎわい。

という意味のようです。

「くちすぎ」、「すぎわい」は聞きなれない言葉なので、さらに調べてみます。
「くちすぎ」は「口過ぎ」と書き、意味は
 

暮らしを立てること。

 

と、あります。

「すぎわい」は「生業」と書くようです。意味は

 

世を渡るための職業。なりわい。生計。

 

という意味のようです。

 

ということで、「生計を一にする」ということは

 

「暮らしを立てるための手段(てだて)=お金の出どころを同じくしている」

 

という意味だと考えても良さそうです。

 

ざっくり言い換えれば

「生活費が同じサイフから出ている」と言っても良さそうです。

 

 

所得税法基本通達での定義

税法で「生計を一にする」の定義を明らかにしているものは所得税法基本通達2-47です。通達には下記のように定義しています。

(生計を一にするの意義)

2-47 法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。

(1) 勤務修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。

 イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合

 ロ これらの親族間において、常に生活費学資金、療養費等の送金が行われている場合

(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

 

「生活費が同じサイフから出ている」ことが「生計一」であるので、「同居していないから生計一ではない」とは言えない、と定義しています。

例えば、親元を離れて暮らす大学生。彼・彼女に生活費・学費を親が仕送りしている場合、「就学の都合上、日常の起居を共にしていない」ですし、「余暇には他の親族のもとで起居を共にすることを常例(帰省してくる)」でしょうし、「常に生活費、学資金の送金が行われている」と言えます。

このような親と離れて暮らす大学生は親と生計一と言えます。

 

離れて暮らす両親に常に送金している場合も生計を一にする、と言えそうです。
しかし、この場合、送金する金額によります。当然、小遣い程度では生活することができません。他の手段で生計を維持しているはずですから、「生活費が同じサイフから出ている」とは言えません。

 

反対に、同居していたとしても「生活費が別々のサイフ」で管理されていれば、同一生計ではない、と考えることも重要です。

 

この「同居していなくても生計一になる」の考えは法人税法にも記述があります。
法人税法基本通達1-3-4は下記のとおりです。

 

(生計を一にすること)

1-3-4 令第4条第1項第5号《同族関係者の範囲》に規定する「生計を一にする」こととは、有無相助けて日常生活の資を共通にしていることをいうのであるから、必ずしも同居していることを必要としない

 

では、個別事情にどうやってあてはめるのか?

 

「生計を一にする」の概念・大枠はこれで分かったかもしれません。(税法の世界で「分かった!」は危険なので、「かもしれない」にしておきます。)

では、個別具体的な自分自身の事情にあてはめるときはどうするのか?が実際には重要で、一番興味があるところです。

基本通達には「概念」や「大枠の考え方」といった方向性だけが記載してあって、具体的に「OOを満たせば、生計を一にしていることになる」という、分かりやすい要件はありません。

なので、事実認定という事になります。

事実認定とは、個別具体的な事情を総合的に勘案して判断する、ということ、と私は考えています。

 

そもそも、家族のカタチは同じものはどこにもなく、全ての家で異なっています。
事情も時間の経過により変わってきます。
特殊な事情が存在する家庭もあります。

これらすべての家庭を1つの条文で規定する方が無理がある、と考えられます。
そのため、事実認定で判断する、その際の基本的な考え方が上記の通達で明示されている、と考えられます。

 

ですので、「生計を一にしている」と言う事を主張したい場合は、「生活費が出ているサイフが同じ」と言う事を証明する証拠が必要、ということになります。
例えば、生活費を振り込んでいるならば預金通帳が一級の証拠になります。(現金手渡しは証拠が残らないのでお勧めできません。)

生活費の他、介護施設の施設代、病院代、療養費、その他生活に必要な費用を子供が支払っており、通帳や領収書で明らかにすることができれば、両親と生計一と言えるでしょう。

これらの証拠を揃えておき、万が一の為に保管しておくことは、そんなに難しいことではないと思います。

 

 

生活費を負担している。生計を支えている。

この事実が生計一の何よりの証拠です。