お店のコンセプトが決まり、お店を出す場所が決まった。
コンセプト通りの内装の見積もりも出てきた。
椅子など、大きな備品の見積もりも材料屋さんから出てきた。
見積もり、見ましたか?
どうです、この金額?
なかなかの金額じゃないですか?
お店1軒出すのは、クルマ数台分の投資が必要です。
ここで落とし穴にはまる人がいます。
落とし穴は2種類あります。
両方にはまる人は、まずいませんのでご安心を。
稀にいるかもしれませんが、私の周りではいませんでした。
開業数年後に2つにはまった人はいました。
と申しますか、私と同じような普通の凡人ならば
1回ははまるのかもしれません。
では、1つめの落とし穴。
見積もりを見て、びびって妥協してしまう事です。
コンセプト通りの内装、備品、スタッフの数
お客さんが来店しやすい立地、駐車場の数
これらを揃えれば、当然お店を出すにあたって最初に必要なお金
(これを初期投資と呼びます。)
は、それなりの金額になります。
この「それなりの金額」にびびって、ためらって
本来削ってはならないモノを削ってしまう事があります。
そして、統一されたコンセプトは崩れ出し始めます。
お店の全体的なデザインが歪みはじめます。
例えば、立地が良い場所は家賃、敷金、礼金も高くなります。
これは当然で当たり前の事です。
そして、なかなか出てこない物件でもあります。
しかし、「この立地じゃなくても、きちんとお客様に接していれば
リピートを獲得できるし、今のお店からお客さんを引っ張って
これるから、大丈夫だよ」と自己中心的な思考におちいり
店舗ビジネスで最も重要な要素の1つである「立地が良いこと」を
犠牲にしてしまいます。
確かに、リピート客は立地は関係ないかもしれません。
新規のお客様はあなたのお店を知らない事が前提です。
ということは、まず知ってもらう事が最初のステップになります。
どのお店も、例えば、ほぼ全ての美容院がお客様にきちんと接しようとしているでしょう。
きちんと接することは「当たり前」の話です。
何をもって「きちんと」なのかという「きちんと」の中身はお店によって
違ってくるとしても、人として一般常識的に理解されている水準以上であれば
大きな違いは感じないでしょう。
逆に、私のように、丁寧にされすぎると気持ち悪くなる、下心を感じる、という層もいます。
店舗系ビジネスの場合、飲食店なら「味」、美容院なら「腕」は当然大切です。
しかし、それは、リピートを生み出す為のメインエンジンであって
新規の方に来ていただくには無意味に近いものがあります。
食べたことが無いもの、切ってもらったことが無い美容院の評価はできないからです。
店舗系ビジネスは「立地」が本当に重要です。
多少の腕のまずさは立地でカバーできます。
多少脱線しましたが、削ってはならない本当に重要なものを削ってしまう。
そして、お店が立ち行かなくなる原因を埋め込んでしまう、という事が起きます。
次に2つめの落とし穴。
それは、「夢の住人」になってしまう事です。
1枚目のアルバム(CD)が最高傑作だ、と言われることが良くあります。
それは、1枚目には創作に対する今までの思い、熱意が
「どん!」と込められているからだと思います。
1軒目のお店も同様です。
今までの思い、熱意、夢、希望といった、もろもろの気持ちが
お店に投下されます。
今まで思い描いていた夢を現実にする、素晴らしい時がやってくるのです!
だから、妥協なんて、とてもできるはずがありません。
最高の立地、最高の道具、最高の備品、最高の内装、最高のスタッフを
揃えたくなるのは当然です。その気持ちはとてもよく分かります。
削ってはならない部分はもちろん削らず維持しているのですが
削ってもいいような、お店の本質とは関係が無い、関係が少ない
ところにカネをかけてしまう事が2つめの落とし穴です。
私の過去のお客様でこんなことがありました。
1軒目のお店の事です。。
夢いっぱいで開業したその方のお店は、床が大理石でした。
大理石「風」のタイルではなく、本物の大理石を使った床でした。
どこかのお城でしか、そんな事は聞いたこともないし見たこともありません。
オープン直前直後に伺ったその店は光り輝いていました。
床がピッカピカのキラッキラなのです。
とにかく、豪華。すごい豪華です。
ゴージャスな雰囲気というコンセプトにピッタリでした。
しかし、大理石はメンテナンスが大変なんです。
真っ白ですから、汚れやすい。
なので、営業が終わると、床を雑巾でキレイに洗います。
それでも、だんだんと汚れが溜まっていくので
定期的に業者に依頼して、床のクリーニングを行ってもらいます。
業者に依頼しているお店はあるかと思いますが
頻度、そして、大理石という特殊性がもたらす価格が
他の普通の床材とは全く違います。
そして、大理石は、滑りやすいんです。
磨き上げられたツルッツルの石ですから、当然といえば当然です。
だから、雨の日は大変です。
スタッフは慣れていますが、お客さんは普通に歩いてしまいますから
転ぶこともあったそうです。
最後に、コスト。建築費用は普通の床材よりも相当高いです。
返済も大変ですし、毎月の費用も増えることになります。
初期投資も高いし、メンテナンスもお金はかかるし手間もかかる。
では、そこまでかけた価値はあるのか?
ここで、質問です。
お店に入って、床を気にしたことがありますか?
おそらく、無いでしょう。床材を売っている人でない限り。
当然、キレイであったり、掃除が行き届いているなど、一般常識的な事はクリアしてでのことです。
お客さんは、美味しいものが食べられたり
キレイにカットして、気持ち良い時間が過ごす事ができれば
床材が本物の大理石であっても、大理石風のタイルであったとしても
そんな事は関係ないはずです。
お客様の満足には関係なく、オーナーの夢を満たす事を優先してしまう。
これが2つめの落とし穴です。
これら2つに共通する事は、「お金の使い方」です。
「使い方」というのは、「メリハリ」です。
どこにお金をかけ、どこにかけないか?
商売で利益を出すということは、お金を投資して
投資した資金を利益と一緒に回収することです。
投下した資金は少なければ少ないほど、儲かる事になります。
かといって、少なすぎれば回収できない。
多すぎれば、回収が大変になるだけ。
このあたりのせめぎあい。
このせめぎあいが難しいところでもあり
試行錯誤するところで、何度も失敗するところでもあり
商売の面白さ、醍醐味でもあるところです。